「ドライキッチン」とは、床面を含め、全体が常に乾いている状態に維持された厨房のことをいう。日本の厨房が、床に頻繁に水を流すのに対し、欧米では、営業中に水を流すことはほとんどなく、厨房は清掃時以外、乾燥している。こうした状態を、床面が常に濡れた日本の従来型厨房に対比させて生まれた言葉で、実はこのドライキッチンという用語は、欧米には無いものだ。
 ドライキッチンの利点は、いくつかあるが、まず挙げられるのが、衛生環境の向上だ。
床が常に濡れていると、湿気が多くなり、バクテリアの繁殖も盛んになる。特に排水用に設けてある開放型の側溝は、細菌類の温床となると共に、ここを伝ってネズミやゴキブリが進入するルートになることが多いし、水を流しっぱなしにしたまま放っておくと悪臭の原因にもなりかねない。
ドライキッチンは、清掃時以外は乾燥しているので、細菌の繁殖を抑えることができ、食材、食器、什器の衛生管理がしやすくなる。簡単なところでは、食器や什器がサビにくくなるという効果もある。
 職場環境を改善できるのも利点の一つだ。通常の厨房は、流水を使った掃除を行うために、厨房中心部に水はけ用の傾斜を設けるケースが多いが、これは厨房内で立ち仕事をするスタッフにとっては疲れやすく、事故の原因にもなりかねない。ドライキッチンは、床面が常に乾いた状態で、滑りにくくなるため、従業員が滑ってケガをする危険性も低くなる。厨房内の湿気が減ることで、厨房内の温度が上がっても、比較的蒸し暑さを感じにくくなるのもメリットだろう。
 ドライキッチンの導入に当たっては、次の点に注意が必要だ。まず大切なのは、上部の開いた側溝を厨房内に作らないこと。これがあると、従業員が水を床に流してしまいがちで、通常の厨房と変わらなくなってしまう。既存の厨房をドライキッチン化する場合は、清掃用の排水口を一カ所置くだけにして、側溝は無くしてしまうのがよい。床の加工については、最も簡便で比較的コストもかけずにできるのは、床にコーティング素材を塗る方法。予算があれば、タイルを張るのがベターだ。コンクリートと違って凸凹がないため、掃除もしやすくなる。厨房内の換気を良くすることも、大切な事柄だ。水を使うだけでも厨房内には湿気が溜まる。厨房内を常に乾いた状態を保つためには、ダクトの数を増やすなど、換気を良くすることが重要となる。また単純なところでは、従業員にゴムの長靴や、ゴムの前かけの使用は禁じることも必要だ。濡れてもいい格好で作業をさせると、「厨房内を濡らしてもいい」という雰囲気が生まれやすいからだ。
 清掃は毎日することが原則。営業中は、床に水を流さずに、汚れはモップなどで水拭きする。営業後は、洗剤を使って清掃し、湯で流した後、モップやドライヤーで水分を取り、しっかりと乾かす。床のゴミだけでなく、濡れた床の水分も吸収できる業務用掃除機があるので、これを活用すると便利だ。
 ドライキッチンのメリットを最大限生かすには、欧米のキッチンのように、調理用の厨房と仕込み用の厨房を分けてしまうのがよい。魚をさばいたり、野菜を洗ったりという下拵えの作業は水を使うことが多く、どうしても床が水で濡れがちになるが、調理用の厨房と別にすることで、衛生管理がやりやすくなる。