外食産業の市場規模は1997年をピークに縮小し続けている。そのなかで、例外的に売上高、出店数を伸ばしているのが回転寿司のチェーンだ。
 今年3月に発表された、小売り・サービス29業界を対象にした「顧客満足度ランキング」でも、回転寿司の大手3社が上位に名を連ねた。3位=あきんどスシロー(店名スシロー)、13位=くらコーポレーション(同くら寿司)、20位=カッパ・クリエイト(同かっぱ寿司)で、飲食業界だけに絞れば、それぞれ1位、2位、4位と上位独占の勢いである。
 回転寿司のコスト構成比を、顧客層(郊外型ファミリー)はほぼ同じだが、現在、苦境に立たされているファミリーレストランと比べてみよう。
 飲食店を運営するのに必要な主要コストは食材費、人件費、水道光熱費、家賃の四つ。なかでも食材費に注目してみよう。飲食店では、売り上げに占める食材費の割合を原価率と言う。この原価率は、ファミレスの場合は30%程度というのが業界の常識となっている。ところが、スシローの原価率は51~52%、くら寿司も50%近い。かっぱ寿司は40%弱。つまり寿司のネタにお金をかけているのだ。このご時世、原価にしっかりお金をかけているところほど伸びているというわけだ。
 和洋中と幅広い食材を扱わなければならないファミレスに比べ、回転寿司は魚に専門特化している。その分、仕入れルートの確立、一括大量仕入れなどで価格以上に質のよいものを手に入れられる余地も大きい。
 客の持つイメージは「どうせ一皿100円前後。安いネタを提供して儲けを出しているのだろう」となりがちだが、実際は「安くて美味しかった」と、お得感を抱いて店を出ることになる。しかも日本人はみな魚の新鮮さや味には敏感だ。美味しいとなれば、次第に評判も高まる。
 アメリカでも15年ほど前の不況下で「アウトバック・ステーキ」というチェーン店が成功した例がある。同チェーンも、業界の常識が30%程度だった原価率を45%と非常に高く設定して人気を得た。ステーキも魚同様、質のよし悪しがわかりやすい食品だ。不況の時代、客は店の雰囲気より食べ物そのものの充実感、お得感を求めるのだろう。
 さらに、回転寿司大手チェーンは、タッチパネル式の注文、5皿につき一回の景品抽選、新幹線の車両型のお皿に注文品が載ってきて目の前で停車する特急レーンの設置など、高いエンターテインメント性を備えている。それが子供の心をしっかり捉え、ファミレスの地位を奪う理由の一つになっている。
 また、人件費も、回転寿司は客数のわりには低めで済む。機械化で寿司を握る職人に本格的な技術は要らないし、フロアで接客する人数もファミレスに比べ少なくて済むからだ。だから、原価率が高くても利益は出る。原価率50%、人件費20%として利益率6%程度と推定していいだろう。
 ただ、原価率50%超という異常なコスト構成の業界が今後もずっと好成績を維持できるか否かはわからない。大繁盛のわりには利益も株価もけっして高くはない。リーマンショック以降、高級魚需要の世界的低下で、より品質のよいものが、より安く手に入るという状況が続いており、それが回転寿司業界の上昇スパイラルを支えてもきた。
 しかし、客は飽きやすく同レベルでは満足しないもの。今後、魚価が上がって、ひとたびスパイラルが逆回転となったとき、原価率の高さが足を引っ張る要因ともなりかねない。