大手外食チェーンで、高価格帯メニューの投入が広がってきた。牛丼の吉野家は、牛丼並盛り(280円)の2倍以上する「牛すき鍋膳」を発売。ファミリーレストランのロイヤルホストは、ステーキを豪州産から米国産に切り替え、価格を引き上げた。外食チェーンはここ数年の安売り競争で疲弊してきたが、景気の回復基調を追い風に客単価を引き上げ、収益改善を図りたい考えだ。【神崎修一】

 ◇客単価アップ狙い

 「吉野家の新しいビジネスモデルを作るために踏み込んだ」。5日、吉野家有楽町店(東京都千代田区)で安部修仁社長は自信たっぷりに「牛すき鍋膳」を紹介した。

 「うまい、安い、早い」を売りにしてきた吉野家だが、「牛すき鍋膳」の価格は580円(ご飯並盛り)。期間限定以外のメニューとしては、「カルビ焼定食」の発売時(2009年8月)と並び、過去最高価格だ。固形燃料が入った1人用の卓上こんろに鍋をのせて提供し、「ゆっくり」食べてもらうことを想定する。

 「高価格」に設定したのは安値競争からの脱却を図るためだ。吉野家は4月、牛丼並盛りを100円値下げし、競合他社並みの280円にした。客数は伸びたが客単価が落ち込み、11月の既存店売上高は前年同月比1.5%増にとどまっていた。安部社長は「新メニュー効果で4~5%の客単価アップが見込める」とそろばんをはじく。

 一足早く高価格路線に手応えをつかんでいるのがファミレスのロイヤルホスト。ガストなど低価格ファミレスの勢力拡大で苦戦していたが、昨年は16年ぶりに年間の既存店売上高が前年実績を上回った。月間ベースでも昨年12月からプラスを維持する。売り上げ堅調の要因の一つが5月に投入した「アンガスリブロースステーキ」(230グラム、1780円)。米国産牛を冷凍せずに低温状態で輸入し、店舗でブロックの状態から手切りする。以前使っていた豪州産(200グラム)より400円高いが、同じ肉を使ったステーキ丼を含めると、1店舗当たり1日25食注文が入る。

 ほかにも、ロッテリアの1000円バーガー(黒毛和牛ハンバーグステーキバーガー)▽デニーズの2290円ステーキ▽松屋フーズの690円定食などが発売されている。いずれも期間や数量限定で、松屋フーズは「評判が良ければ定番化を検討する」という。デフレ慣れした顧客の価格志向を見極めたうえで、高価格路線の拡大を狙う。

 ◇日本の外食産業◇

 「食の安全・安心財団」の推計によると、2012年の外食産業の市場規模は23兆2300億円。東日本大震災の反動で、前年に比べると微増だったが、中長期的には1997年の29兆700億円をピークに減少傾向が続く。

 景気低迷が長引いて、外食を控える傾向が強まったことが主因。100円のハンバーガーや280円の牛丼など、ファストフードチェーンで低価格メニューが広がったことも価格を押し下げた。

 一方、持ち帰り弁当や総菜店などの「中食」市場は年々拡大し、2012年は過去最高の6兆4600億円を記録した。最近は円安に伴って原材料価格が上昇していることに加え、来年4月の消費増税後は買い控えも予想されており、経営環境は厳しい。