「お客様を安全な場所までお連れするに必死でした」。

3月11日に発生した東日本大震災が起きた瞬間を、仙台市内でラーメン店「愛と勇気と炎の拉麺屋 たいらん」を経営する望月太郎店主は、こう振り返る。

被災時、望月店主は、2つある店の1つ、「仙台駅前本店」で働いていた。揺れが収まるのと同時に、入居するビルから指定されていたビル内の「避難場所」までお客を誘導したのだ。

地震の発生が15時近くでお客がほとんどいない時間帯だったこと、火を使っていなかったことは不幸中の幸いだった。お客にも従業員にもケガはなかった。

今回ほどの規模の大地震が頻発するとは思えないが、やはり、今後、気になることの一つは、同じ規模の大地震が再び発生し、お客が店内でケガをしたら、賠償の責任が店側にあるのかどうかだろう。

「店側がお客に何らかの賠償をする法的根拠は民法の『債務不履行』と『不法行為』。店内でケガを負わせた場合は、他人の権利・利益を侵害する『不法行為』に当たる可能性があるかを考える必要がある」と林勘市法律事務所の中井淳弁護士は指摘する。

「不法行為」と判断されるのは(1)故意・過失があること、(2)損害が発生していること、(3)因果関係があること、などの「要件」を満たす場合だ。

「今回のような何十年に一度の大地震は予測できないため、故意・過失がない『不可抗力』。賠償の責任はない。大地震の再発をおそれて、過剰に心配する必要はない」と中井淳弁護士。

ただし、発生が予測できる規模の地震で店内の何かが落ちて、ケガをした場合などは責任を問われる可能性はあるという。可能な限りの防災対策や訓練は実施しておくべきだ。法律はともかく、お客の安全を守ることが店にとって最も大切なことは間違いない。