設計者側に落ち度があり、予定していた期日までに設計が終わらないため、着工できず、開業が遅れた場合、基本的には損害賠償を請求できる。契約書に、納期に遅れた場合のペナルティーについての記載があれば、それに従って請求すればよい。
 契約時にペナルティーを取り決めておかなかった場合は、次のように考える。ただし、遅れても、その設計者に図面を仕上げてもらいたい場合と、その設計者との契約を解除したい場合では対応が異なる。
まず、設計者との契約を解除したい場合。契約書に書かれた完成日までに納品できなければ「契約不履行」ということになるので、法律的にも契約を解除し、成果物(図面など)を受け取らず、すでに支払った費用の返還を求められる。
 さらに、損害賠償を請求することも可能だ。その場合、請求できる金額は、あくまで「設計の遅れによって直接こうむった損害額」となる。しかし、実際に営業していない段階では、「設計が遅れたことによって、いくらの損害が出るか」を算定し、それを証明することは難しいため、開業前に賠償請求しても、あまり認められないようだ。
 損害賠償を請求するには、他の設計者に依頼し直し、店を開き、実績を出して、その売上額に基づいて請求した方が確実だ。例えば、予定より3カ月遅れで開店し、開店後の月商が300万円で、利益が30万円だとする。この場合は「1カ月の利益30万円×遅れた3カ月分=90万円」を請求することになる。
遅れても、契約を解除せず、図面を受け取る場合は、遅れた分の損害賠償ということで、値引きを要求するのが通例。金額的には料金の数%程度とわずかなものになることも多い。これとは別に、契約を解除した場合と同様に、遅れた期間に得ていたはずの利益に基づいた損害賠償を求めることは可能だ。
 設計が遅れたことから問題が派生して開業できず、そのまま出店を取りやめなければならない事態に追い込まれることもあるだろう。だが、この場合、損失の算定根拠がないため、損害賠償の請求は難しい。
個々のケースで問題になるのは、「どの程度遅れたら、契約不履行になるのか」という点。設計などの作業は、通常、依頼主(施主)と打ち合わせを行いながら進めるものであり、話し合ううちに、当初の計画を修正したり、変更することもありうる。そうなると、設計作業に手戻りなどが発生するため、予定より設計期間が延びることになる。そのため「契約書の期限は目安」と設計者が主張すれば、その言い分が認められることも多い。一般的には、1~2カ月程度の遅れは、契約不履行とは見なされないようだ。
 ただし、それでも契約不履行と認められることもある。それは、作業進行中に、「期日を守ってほしい」ということをはっきりと相手に伝えていた場合だ。これは、文書で伝えることが望ましいのはもちろんだが、口頭でもかまわない。
 施工段階で、予定日までに工事が終わらなかった場合もほぼ同様だ。特に施工では、設計段階で図面を見ても分からなかった不都合に気が付き、設計変更を依頼することも出てくる。そうなると、当然、工事期間が延びてしまうが、施工会社の責任は問いにくくなる。やり直しをすることによって、どの程度、工事期間が延びるかを確認しながら、変更の依頼をすべきだ。
 施工の場合は、設計と異なり、成果物を受け取らずに契約を解除するという選択は、事実上、難しい。当初の状態に戻す現状復帰にさらに時間を要するからだ。むしろ、管理者である設計者を通して、きちんとスケジュール通りに工事が進行しているかを日々チェックしておくことが望ましい。
いずれにしても、設計・施工作業が遅れた場合に発生するトラブルを予防し、発生する損害を担保するには、契約時に、期日に遅れた場合のペナルティーを明確にしておくことだ。